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価格動向

Q. 2026年Q2に従来型DRAM契約価格の上昇モメンタムが初めて鈍化しTrendForceが「極端な売り手市場の終焉」を示唆――情シスはQ3の調達タイミングをどう判断すべきか? A. 契約価格は上昇基調を維持するが上げ幅は縮小に転じており、Q3に向けた段階的な調達前倒しが合理的な選択肢となる

RAMEXperts™️ 編集部

何が起きたのか――Q2契約価格の「減速」が意味すること

2026年5月3日時点で、DRAM市場は2024年後半から続いた記録的な価格高騰サイクルの転換点に差しかかっている。TrendForceが2026年4月30日に更新した最新の契約価格データは、従来型DRAMの契約価格がQ2も上昇を続けたことを確認する一方、その上昇モメンタムが明確に鈍化したことを示した。同データでは「高コストがPC販売を弱め、交渉を冷やし、極端な売り手市場を終わらせた」と評されている。

QoQ(前四半期比)とは、直前四半期と比較した変動率を示す指標である。Q1 2026の従来型DRAM契約価格は前四半期比90〜95%という史上最大の上昇を記録した(なお、PC DRAMに限定するとQ1は前四半期比100%超の上昇が見込まれていた)。Q2の従来型DRAM予測値は58〜63%QoQへと減速した。依然として大幅な値上がりではあるものの、上げ幅が約30ポイント縮小した事実は、市場の力学が変わり始めていることを意味する。

価格上昇の「速度」が変わった背景とは

モメンタム鈍化の背景には、需要側と供給側の双方に構造的な要因がある。

需要側:高コストによるPC出荷の圧縮

IDCは2026年のPC出荷台数を前年比11.3%減と予測している。PC・スマートフォンメーカーが相次いで仕様のダウングレードや価格転嫁を実施した結果、エンドユーザーの購買意欲が後退し、メモリ需要が冷え込み始めた。TrendForceの3月31日付レポートでも「消費者向けDRAMの顧客は低コスト・高ボリューム製品に集中しており、2025年初頭からの継続的な価格上昇がメモリコストを一部製品の販売価格を上回る水準に押し上げたため、調達需要がわずかに減速した」と指摘されている。

供給側:構造的逼迫は継続

一方で、供給側の制約は本質的に解消されていない。Micronは2026年度第2四半期(2026年2月期、2025年12月〜2026年2月)に売上高238.6億ドル(前年同期比196%増)、粗利益率75.0%という記録的決算を報告し、CEO Sanjay Mehrotraは「DRAMとNANDの需給逼迫は2026年を超えて持続する」と明言した。同社は主要顧客の需要の「約55〜60%」しか満たせない状態が続いており、新ファブ(アイダホ第1工場)の本格稼働は2027年半ば以降、ニューヨーク工場は2028年後半と、短期的な供給増は見込めない。

HBM(High Bandwidth Memory)とは、AI向けGPUに使用される広帯域メモリであり、通常のDDR5と比較してウエハー面積を約3倍消費する。Micronは2026年3月16日のGTC 2026でNvidia Vera Rubin向けHBM4 36GB 12Hの量産出荷開始を発表した(量産出荷は2026年Q1中に開始済み)。2026年のHBM供給は全量が長期契約で確保済みである。HBMへのウエハー配分が増えるほど、汎用DDR5 RDIMMやPC向けDRAMの供給余力は圧縮される構造は変わらない。

スポット市場と契約市場の乖離――情シスへの影響の違い

2026年5月3日時点で、DRAM市場には2つの異なるシグナルが並存している。

  • スポット市場:安定化〜小幅下落。TrendForceの最新データではスポット市場が安定化したと報告されている。台湾のメモリ業界関係者は「契約価格は完全に安定しており、懸念は不要」とコメントしている。
  • 契約市場:上昇継続だが傾斜は緩やかに。TrendForceの4月30日更新データでは、長期契約は「緩やかで持続的な価格上昇」を見込む方向で交渉が進んでいる。Q1の「毎月のように急騰する」パターンから、Q2〜Q3にかけては「着実だが穏やかな上昇」へとトーンが変わりつつある。

情シスの調達実務にとって重要なのは、スポットの下落を「値下がりの始まり」と早合点しないことである。年間ベースでの価格水準は依然として歴史的高値圏にある。

Q3 2026の価格見通し――3つのシナリオ

Q3 2026の契約価格がどう動くかは、情シスの下期予算策定に直結する。複数のアナリスト予測を統合すると、以下の3シナリオが浮かび上がる(注:確率と変動率の範囲は本記事の分析フレームワークであり、特定アナリスト単独の予測ではない)。

シナリオ確率Q3 QoQ変動率主な前提条件
ベストケース20%+10〜20%メモリ圧縮技術の普及や需要減速でAIメモリ需要が想定以上に鈍化
ベースケース60%+25〜40%AIサーバー需要は堅調だが、PC・スマホの需要後退が上昇幅を抑制
ワーストケース20%+50%超Samsung労組ストライキや関税拡大で供給ショックが再燃

ベースケースでは、価格上昇は続くものの上げ幅はQ2(58〜63%)からさらに縮小する見込みである。アナリスト各社はQ3を「減速の継続フェーズ」と位置づけている。

メーカー3社の供給戦略比較――誰が何を優先しているか

メーカー2026年の最優先投資先汎用DRAM供給姿勢新ファブ稼働時期
SamsungHBM4への移行・DDR5 RDIMM再配分HBM3→HBM4移行に伴い1a→1b世代の30〜40%を汎用DDR5に転換P4拡張(時期未公表)
SK hynix世界最大のHBMアセンブリ工場(龍仁)SOCAMM2等AIサーバー向けを優先龍仁工場(段階的稼働)
MicronHBM4量産・1-gamma DRAM比率拡大主要顧客需要の約55〜60%のみ充足可能Idaho #1:2027年半ば / NY:2028年後半

注目すべきは、SamsungがHBM世代交代(HBM3E→HBM4)の過程で、旧世代HBM用ウエハーの一部を汎用DDR5に再配分する動きを見せていることである。TrendForce経由のTechPowerUp報道によれば、Samsungの1a世代DRAM容量の30〜40%を1b世代の汎用メモリ(DDR5、LPDDR5X、LPDDR6、GDDR7)に転換する計画がある。これはQ3以降の供給環境をわずかに改善する可能性があるが、AI需要全体の成長を相殺するには十分ではない。

情シスの調達判断――「待つべきか、動くべきか」の実務的回答

結論から述べると、Q3に大幅な値下がりを期待して調達を先送りするのは合理的ではない。ただし、Q1のような「どんな価格でも買わなければ入手できない」フェーズは過ぎつつあり、交渉余地が生まれ始めている。

根拠1:契約価格の傾斜は緩やかになるが、水準は下がらない

複数のアナリストが一致して指摘するのは、2026年内に本格的な価格下落は見込めないという点である。IDCは2026年のメモリ供給課題が2027年まで継続すると見込んでおり、メモリ価格の緩和開始は2028年としている。Micronの新ファブも2027〜2028年にかけて段階的に稼働するため、供給構造の改善は中長期の話である。

根拠2:スポットの安定化は交渉カードになりうる

スポット価格が安定〜下落に転じたことは、契約交渉において買い手側がレバレッジを得られる可能性を示唆している。台湾のモジュールメーカーは「厳格な価格規律を維持」しているものの、Q1のような一方的な売り手市場ではなくなりつつある。DRAM専門の調達パートナーを活用し、複数チャネルの価格情報をリアルタイムで比較することが、交渉力の源泉となる。

根拠3:中国メーカー(CXMT)という新たな選択肢

報道によれば、クライアントOEM向けにCXMT(長鑫存儲技術)製DDR5モジュールの調達が新たな選択肢として浮上している。地政学リスクや品質認証の課題はあるものの、マルチベンダー戦略の一環として検討に値する動きである。

情シスが早期に検討すべき3つのこと

  • 1. Q3契約の早期交渉開始:Q2の「モメンタム鈍化」を交渉材料として活用し、Q3契約の価格条件を5月中に打診する。スポット安定化のデータを根拠に、Q1のような大幅値上げの受け入れを回避する交渉が可能になりつつある。
  • 2. シナリオ別予算の策定:上記3シナリオの確率加重コスト(ベストケース×20% + ベースケース×60% + ワーストケース×20%)で下期のメモリ調達予算を算出し、上長への稟議資料に反映する。単一予測に依存した予算は、ワーストケース発生時に追加承認が必要となりリードタイムを失う。
  • 3. DDR5調達先の多様化検討:Big3以外のサプライヤー(CXMTを含む中国勢、台湾モジュールメーカー)からの見積もり取得を開始する。複数の調達チャネルとの関係構築が、供給逼迫局面での調達柔軟性を確保する鍵となる。

よくある質問

Q: 2026年Q3にDRAM価格は下がりますか?

A: 2026年5月3日時点の主要アナリスト予測を総合すると、Q3の契約価格が前四半期比で下落に転じる可能性は低い。ベースケース(確率60%)ではQ3も25〜40%のQoQ上昇が見込まれるが、Q1の90〜95%(従来型DRAM全体)、Q2の58〜63%(同)と比べれば上げ幅は着実に縮小している。IDCは2026年のメモリ供給課題が2027年まで継続すると見込んでおり、本格的な正常化は2028年以降が最も早いシナリオである。

Q: スポット価格の下落は契約価格にいつ反映されますか?

A: 台湾のメモリ業界関係者によれば、スポット市場の変動が実際の出荷・契約価格に反映されるまでには通常1〜2か月のタイムラグがある。スポット市場の安定化は消費者需要の軟化を反映したものであり、エンタープライズ向け契約価格の下落シグナルではない点に注意が必要である。

Q: 新ファブの稼働で供給不足はいつ解消されますか?

A: Micronのアイダホ第1ファブは2027年半ば、ニューヨーク工場は2028年後半のウエハー出力開始予定であり、SK hynixの龍仁HBMアセンブリ工場も段階的な立ち上げとなる。IDCの推計では2026年のDRAMビット供給増は前年比約16%にとどまり、需要増を下回る見通しである。供給構造の本格的な改善は2027年後半〜2028年にかけて段階的に進むと見るのが現時点で最も妥当な見方である。