Section 232半導体関税とは――現行の適用範囲と第2フェーズの概要
Section 232とは、米国1962年通商拡大法第232条に基づき、大統領が国家安全保障上の脅威と判断した輸入品に対して関税を課す権限を定めた法令である。鉄鋼やアルミニウムへの適用で知られるが、2026年1月14日、トランプ大統領は半導体分野にも同条項を適用する大統領布告(Proclamation 11002)を発令した。同布告により、2026年1月15日午前0時1分(東部標準時)から、一定の技術パラメータを満たす高性能ロジック半導体およびその派生製品に対し、25%の従価税が課されている。
2026年5月2日時点で、この関税の適用対象は極めて限定的である。具体的には、NVIDIA H200やAMD MI325X相当のAI向け高性能ロジックICとそれを含む製品に限られており、DRAMチップやメモリモジュールは現行では対象外である。しかし、布告には明確に「第2フェーズ」の存在が示されており、交渉の結果次第で対象品目の大幅な拡大と税率の引き上げが予定されている。
第2フェーズに向けた2つの重要期限
- 2026年4月14日(経過済み):米国通商代表部(USTR)と商務省が貿易交渉の状況を大統領に報告する期限。この報告を踏まえ、大統領は関税の修正・拡大を決定できる。
- 2026年7月1日(未到来):商務長官が「米国データセンター向け半導体市場」に関する最新報告書を大統領に提出する期限。この報告書により、DRAMを含むデータセンター用半導体への関税修正(拡大または縮小)が判断される。
つまり、2026年7月1日のレポート提出後に、メモリチップを含む幅広い半導体製品が新たな関税の対象となる可能性が現実味を帯びている。
100%関税の示唆が意味すること――情シスへの影響分析
2026年1月16日、Micronのニューヨーク工場起工式において、ハワード・ルトニック米国商務長官は「米国内で生産しないメモリ企業には100%の関税を課す」と発言した。この発言は、DRAMメーカーに対して米国内での生産拠点構築を迫るものであり、市場に大きな波紋を広げた。
現在、DRAM市場はSamsung(韓国)、SK hynix(韓国)、Micron(米国)のBig 3による寡占構造であり、3社合計で全世界の生産能力の約95%超を占める。このうち、米国内でDRAMウエハーの量産を行っている(または具体的に計画している)のはMicronのみである。Samsungは米国テキサス州に半導体ファブを建設中だが、メモリ専用ではない。SK hynixはインディアナ州に約38.7億ドル($3.87 billion)を投じた2.5Dパッケージング拠点を発表しているが、DRAM製造ラインは含まれていない。
仮に第2フェーズでDRAMが100%関税の対象となった場合、韓国・台湾製のメモリモジュールの米国向け調達コストは単純計算で最大2倍に跳ね上がる。日本市場への直接的な関税適用はないものの、グローバルサプライチェーンを通じた間接的な価格転嫁は避けられない。特に、米国系クラウドサービスプロバイダー(CSP)がメモリ調達コストの上昇をサービス料金に転嫁した場合、日本の情シス部門にもクラウド利用料の値上げという形で影響が及ぶ。
関税リスクの定量的インパクト
| シナリオ | 関税率 | 64GB DDR5 RDIMM想定影響 (2026年Q2スポット価格 約780ドルベース) | 情シスへの波及経路 |
|---|---|---|---|
| 現行(第1フェーズ) | 25%(高性能ロジックICのみ) | DRAM非対象のため直接影響なし | AI向けGPUサーバーの調達コスト増 |
| 第2フェーズ・穏健シナリオ | 25%(DRAMを含む広範囲に拡大) | 約975ドル(+25%) | サーバーメモリ調達単価の上昇、OEM見積もり改定 |
| 第2フェーズ・最大シナリオ | 100%(米国内非生産者対象) | 約1,560ドル(+100%) | クラウド利用料の値上げ、PC・サーバー調達計画の全面見直し |
上記はあくまで試算であり、実際の関税率・適用範囲は7月1日以降の大統領判断に委ねられている点に注意が必要である。
DDR4・DDR5の調達先と原産地――いま確認すべきポイント
関税の適用は原産地(Country of Origin)に基づいて判断される。情シス部門がメモリモジュールを調達する際、モジュールの組立国とDRAMチップ(ダイ)の製造国が異なるケースは珍しくない。たとえば、韓国で製造されたDRAMチップが中国でモジュールに組み立てられ、米国経由で日本に輸入される場合、関税の適用判断は複雑になる。
2026年5月2日時点で確認すべき事項は以下の通りである。
- 主要ベンダーの原産地情報:自社が利用しているサーバーOEM(Dell、HPE、Lenovo等)が採用するメモリモジュールのDRAMチップ原産地を確認する。直接調達している場合は、ディストリビューターに原産地証明(Certificate of Origin)を求める。
- 米国クラウドサービスの料金改定リスク:AWS、Azure、GCPなどの米国系CSPがメモリ調達コスト上昇をサービス料金に転嫁する可能性を、クラウド利用費の予算策定に織り込む。
- 代替調達経路の棚卸し:Micron製品は米国内生産であるため関税の影響を受けにくい。Samsung・SK hynix製品への依存度が高い場合、Micron製品への切り替えや、原産地を考慮したマルチベンダー体制を構築することが有効である。
半導体関税と累積コスト圧力――調達予算への複合的影響
関税リスクは、すでに進行中のDRAM価格高騰の上に積み重なる追加コスト要因である。Counterpoint Researchの調査によれば、2025年Q4から2026年Q1にかけて、メモリ価格は前四半期比80〜90%上昇した。Sourceabilityの分析では、Q3に30%、Q4に40〜50%、Q1にさらに80〜90%と、わずか3四半期で調達コスト構造が根本的に再定義されたと指摘されている。
この累積的なコスト上昇に加え、Section 232関税の第2フェーズが発動された場合、情シス部門は「市場価格の高騰」と「関税による追加コスト」という二重の圧力に直面することになる。IDCは2026年のDRAMおよびNAND供給成長率をそれぞれ前年比16%、17%と予測しており、歴史的な水準を下回る供給制約が続く見通しである。
とりわけ注目すべきは、メモリメーカー3社のうち米国内でDRAMを量産しているのはMicronのみという構造的な集中リスクである。Micronはアイダホやニューヨークでのファブ拡張を進めているが、新ファブからの本格的な量産出荷は2027年以降とされている。したがって、仮に2026年後半にDRAM関税が発動されても、Micronの米国内供給だけでは市場全体の需要をカバーできず、Samsung・SK hynix製品への依存を短期的に解消することは困難である。
Google TurboQuantの登場と需要見通しへの影響
2026年3月25日、Googleはメモリ圧縮技術「TurboQuant」を発表した。同技術はLLM推論時のKVキャッシュのメモリ消費を最大6分の1に削減できるとされ、発表直後にSamsung・SK hynix・Micronの株価が一時下落した。しかし、業界アナリストはこの技術が「推論ワークロードのみに適用され、トレーニング需要には影響しない」と指摘しており、DRAM全体の需要を構造的に減らすものではないとの見方が大勢である。むしろ、推論コストの低下がAI利用の拡大を促す「ジェヴォンズのパラドックス」により、中長期的にはメモリ需要がさらに増加する可能性も指摘されている。
TrendForceの3月31日付レポートでは、DDR5小売価格の一部下落(ドイツで前月比7.2%下落、米国でも一部製品が20%以上下落)が確認されているが、同時に「大手メモリサプライヤーの契約価格は完全に安定している」と報じられている。つまり、リテール市場での一時的な在庫調整は見られるものの、情シスが交渉する法人向け契約価格は依然として高止まりしている。
情シスが早期に検討すべき3つのこと
- 1. 原産地の確認と関税シミュレーション:現在調達しているメモリモジュール(RDIMM、UDIMM、SO-DIMM)のDRAMチップ原産地を、OEMまたはディストリビューター経由で確認する。7月1日以降の関税拡大を想定し、25%・100%の各シナリオでの調達コスト増をシミュレーションしておく。
- 2. ベンダーポートフォリオの再構成:Samsung・SK hynix製品に偏重している場合、Micron製品の採用比率を引き上げることを検討する。ただし、Micronの供給キャパシティにも限りがあるため、複数の調達チャネルを並行して確保することが望ましい。
- 3. クラウド利用料の予算バッファ確保:米国系CSPの料金改定リスクを織り込み、2026年度下期のクラウド利用予算に10〜20%のバッファを設定する。オンプレミスのサーバー増設計画がある場合は、メモリ調達の前倒し発注も選択肢となる。
Q: Section 232関税は日本国内のメモリ調達に直接影響するか?
A: 2026年5月2日時点では、Section 232関税は米国への輸入品に課されるものであり、日本国内の直接調達には適用されない。ただし、グローバルなサプライチェーンを通じた間接的な影響として、①米国市場での需要シフトによる供給バランスの変化、②米国系CSPのサービス料金への転嫁、③OEMが米国向け供給を優先することによるアジア市場への供給減少、といった経路で日本の情シス部門にも波及する可能性がある。
Q: DRAMが実際にSection 232の対象に含まれる確率はどの程度か?
A: 確率の定量的な予測は困難だが、商務長官が100%関税を公言していること、布告本文に「半導体、半導体製造装置、およびその派生製品」という広範な対象定義が含まれていること、そして商務省が7月1日にデータセンター向け半導体市場のレポートを提出する義務があることから、DRAMを含むメモリチップが第2フェーズの検討対象に入る蓋然性は低くない。情シスとしては「発動された場合」のシナリオプランニングを進めておくことが合理的である。
Q: 関税リスクを踏まえ、DDR5への移行を急ぐべきか?
A: DDR4は主要メーカーのEOL(End of Life、製品の生産終了)が進行中であり、供給制約は関税とは無関係に深刻化している。DDR5への移行判断は関税リスクとは切り離して、プラットフォームの互換性と中長期の調達安定性を軸に行うべきである。ただし、DDR5モジュールの原産地構成がDDR4と異なる場合があるため、移行先のモジュール仕様と原産地を事前に確認しておくことを推奨する。