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供給動向

Q. 2026年6月25日にBig3(Samsung・SK hynix・Micron)が反トラスト集団訴訟を提起され、同週に韓国政府が約5,180億ドル規模の半導体増産計画を発表――訴訟と増産の「二正面」は情シスのDRAM供給見通しをどう変えるか? A. 訴訟の価格影響は2026年内ゼロとJefferiesが予測する一方、新ファブの本格稼働は2030年代半ば以降であり、少なくとも今後数年間は供給逼迫を前提とした調達体制の維持が不可欠である

RAMEXperts™️ 編集部

反トラスト訴訟と韓国メガ投資が同時進行する異例の局面とは

2026年7月2日時点で、DRAM市場は供給サイドに二つの大きな動きが同時に走っている。一つは法的リスクの顕在化、もう一つは中長期の増産コミットメントである。情シス担当者にとって重要なのは、どちらの動きも「2026年下期の調達環境をただちに改善する材料ではない」という点だ。

訴訟の概要――何が問われているのか

反トラスト訴訟(Antitrust Lawsuit)とは、競争者間の取引制限合意(共謀)などを違法とする米国シャーマン法に基づく訴訟である。2026年6月25日にカリフォルニア北部地区連邦地裁へ提起された本件(Garciaguirre v. Samsung Electronics)は、シャーマン法第1条(競争制限的な合意の禁止)に基づき、14名の個人消費者と3社の中小企業、合計17名が原告となっている。

訴状によれば、Samsung、SK hynix、Micronの3社は世界のDRAM市場の約90%を支配しており、HBM(High Bandwidth Memory=AIアクセラレーター向けに垂直積層されたDRAM)への生産移行を「口実」として、DDR3・DDR4など汎用DRAMの生産を協調的に縮小し、過去4年間で価格を約700%上昇させたと主張している。

過去にもSamsungとSK hynixは2000年代にDRAM価格カルテルで有罪判決を受けた前例がある。Samsungは2005年に3億ドル、SK hynixは同年1億8,500万ドルの罰金を科されている。一方、Micronは今回の訴訟に対し、訴えを否定し法廷で争う意向を示した。

訴訟は短期の供給・価格を変えるのか

結論から述べると、2026年内に訴訟がDRAM価格や供給に影響を及ぼす可能性は極めて低い。投資銀行Jefferiesは、訴訟がメモリ価格に影響するのは「少なくとも年末まではない」と予測しており、むしろ3Q26にDRAM価格がさらに40〜50%、4Q26に30〜40%上昇するとの見通しを示している。

訴訟の論点は「3社が協調して生産を制限したか、それぞれ独立に同じ経営判断に至ったか」にある。仮に訴訟が長期化し和解や判決に至ったとしても、過去のDRAM訴訟では結果が出るまでに数年を要しており、罰金や損害賠償が市場構造を変えた事例はない。情シスの調達計画において、訴訟を「価格下落の期待材料」に組み込むことは現実的ではない。

韓国官民半導体投資計画(約5,180億ドル)の中身と供給への影響

訴訟と同じ週に、韓国政府はSamsung・SK hynixと共同で「三大メガプロジェクト」と称する半導体投資計画を発表した。SamsungとSK hynixがそれぞれ2工場ずつ、合計4工場を韓国南西部に建設する。投資規模は800兆ウォン(約5,180億ドル)で、Samsung・SK hynixを中心とする民間投資に政府が枠組み支援を行う官民パートナーシップの形をとる。韓国のDRAM生産能力を5年以内に倍増させることを目標としている。

ただし、情シスの調達判断においてこの数字を「近い将来の供給改善」と読み替えるのは誤りである。今回新たに発表された南西部の4工場は、完成目標が2030年代半ばとされており、DRAM供給に本格的に寄与するのはそれ以降となる。既存の建設中ファブ(SamsungのPyeongtaek P5/P6やSK hynixの龍仁クラスター等)についても、クリーンルームのスペース不足が増産を制約しており、量産体制への移行にはさらに時間を要する。Deutsche Bankは、DRAMの供給逼迫が2028年以降も続く可能性を指摘している。

SEMIの試算では、2026年の韓国における半導体ファブ投資額は約350億ドルと前年比29.6%増だが、グローバルDRAMウェハー投入量の成長率は年率6〜8%にとどまる。IDCも2026年のDRAM供給成長を前年比16%と予測しており、過去の平均(20〜30%)を大幅に下回る。

新ファブ稼働までの「供給ギャップ」はどれだけ深刻か

Nikkei Asiaの報道によれば、Big3のDRAM増産ペースは需要の約60%しかカバーできない見通しである。Samsungのメモリ事業責任者Kim Jaejuneは2026年4月の決算報告で「メモリ製品全般にわたる深刻な不足が少なくとも2027年まで続く」と警告した。SK hynixも同様の見解を示している。

供給制約の本質は、HBMが汎用DRAMに比べてウェハー容量を約3倍消費する構造にある。HBM需要は2026年に前年比70%成長が見込まれ、AIワークロードが2026年の全DRAM生産の約20%を消費すると推定されている。結果として、DDR4やDDR5など汎用DRAMのウェハー配分は構造的に圧縮され続ける。

指標数値出典
2026年DRAM供給成長率(前年比)16%IDC
DRAMウェハー投入量成長率6〜8%(年率)SemiAnalysis
Big3の増産が需要をカバーする割合約60%Nikkei Asia
HBMのウェハー消費量(DDR5比)約3倍BISI / IDC
韓国南西部新ファブ完成目標2030年代半ばTom's Hardware / SEMI
既存建設中ファブの量産寄与2027年後半〜2028年Deutsche Bank

Jefferiesの価格予測が示す2026年下期の調達コスト見通し

投資銀行Jefferiesは、3Q26にDRAM価格がさらに40〜50%、4Q26に30〜40%上昇するとの見通しを公表している。仮にこの予測通りに推移した場合、2026年末時点の契約価格は2025年末比で数倍の水準に達する計算となる。

Tom's Hardwareの2026年7月1日更新のRAMプライストラッカーによれば、DDR5メモリキットの小売価格は日々大きく変動しており、DDR4もまた「安全な避難先」ではない。2025年10月に60〜90ドルだった32GB(2×16GB)DDR4キットは、2026年1月時点で150〜180ドルに上昇し、その後もさらに価格が上がっている。

リードタイムも長期化が顕著である。VersaLogicの供給チェーンレポートでは、主要サプライパートナーが「2026年末まで月10〜20%の価格上昇を計画すべき」と顧客に通知しており、DDR3・DDR4・DDR5のすべてで割当管理と長期リードタイムが続いている。30週超のリードタイムが常態化している状況では、発注から納品までの計画を四半期単位ではなく半年〜1年単位で策定する必要がある。

過去のDRAM訴訟から学ぶ――情シスへの実務的示唆

2000年代のDRAM価格カルテル訴訟では、Samsung・SK hynix・Elpida・Infineonなどが有罪判決を受けたが、訴訟期間中にDRAM供給や価格が改善することはなかった。今回も同様のパターンが繰り返される可能性が高い。

情シスにとっての実務的含意は明確である。訴訟は中長期的に市場の透明性を高める可能性はあるが、短期的な調達環境の改善材料にはならない。むしろ訴訟によって3社が生産配分を変更するリスク(例:訴訟リスク軽減のためにHBMから汎用DRAMへの一部シフトを検討する可能性)にも目を配る必要があるが、現時点でそうした動きは確認されていない。

60万5,000品の取扱実績を持つDRAM専門の調達パートナーであるRAMEXperts™️のようなスペシャリストチャネルを含め、複数の調達ルートを確保しておくことが、割当管理下での供給途絶リスクを低減する現実的な手段となる。

情シスが現時点で検討すべき3つのこと

  • 1. 訴訟を価格下落の期待材料にしない:Jefferiesは2026年内の価格影響を否定している。調達予算は3Q26で40〜50%、4Q26で30〜40%のさらなる上昇を織り込んで策定すべきである。
  • 2. 新ファブ稼働時期を正確に認識する:韓国の約5,180億ドル投資計画は壮大だが、今回新たに発表された南西部の4工場の完成目標は2030年代半ばであり、DRAM供給に寄与するのはそれ以降となる。既存建設中ファブの量産寄与も2027年後半〜2028年が見込まれる。2026年下期〜2027年前半は現行の供給制約が続く前提で、12か月以上先の需要を早期にコミットする体制を構築すること。
  • 3. レガシーDRAM(DDR3/DDR4)の在庫を再点検する:訴訟でも論点となっているように、Big3はDDR3・DDR4の生産を構造的に縮小している。DDR3のリードタイムは特に深刻で、長期供給コミットメントの確保が困難になっている。産業機器や組込み系でDDR3/DDR4に依存するシステムがある場合、MOQなし最短10日納品が可能なRAMEXperts™️などの専門チャネルも含めた代替調達先の確認を計画的に進めるべきである。

よくある質問

Q: DRAM反トラスト訴訟で勝訴すれば、メモリ価格は下がるのか?

A: 過去の前例では、訴訟の結果(罰金・和解金)は企業の財務に影響を与えたものの、DRAM市場の供給構造や価格形成メカニズムを根本的に変えることはなかった。今回の訴訟も判決まで数年を要する見込みであり、2026〜2027年の調達計画に価格下落を織り込むのは非現実的である。

Q: 韓国の約5,180億ドル投資で、DRAMの供給不足はいつ解消されるのか?

A: 今回新たに発表された南西部4工場の完成目標は2030年代半ばであり、供給への本格的寄与はそれ以降となる。既存建設中ファブについても、大規模な装置投資と量産立ち上げにはさらに時間を要する。Deutsche BankはDRAM供給逼迫が2028年以降も続く可能性を指摘しており、SemiAnalysisの分析でもメモリ業界の利益ピークは2027年Q4以降と見ている。一方で、過去のDRAMスーパーサイクルでは増産が供給過剰に転じるまで1〜2年を要しており、2028〜2029年に過剰供給局面が到来するシナリオも存在する。情シスは「逼迫の長期化」と「過剰供給への急転換」の両方のシナリオを想定した柔軟な調達戦略を持つべきである。

Q: 訴訟によってBig3がHBMから汎用DRAMへ生産をシフトする可能性はあるか?

A: 現時点ではそのような動きは確認されていない。3社はHBMの営業利益率が汎用DRAMを大幅に上回る限り、高マージン製品への生産集中を継続するインセンティブを持つ。訴訟のリスクが経営判断に影響する可能性はゼロではないが、SK hynixの営業利益率が70%台後半に達している現状では、短期的な生産配分の変更は考えにくい。