2026年7月時点の状況:メモリ不足が「客先端末」に波及した
2026年のメモリ危機は、サーバーやHBMだけの話ではなくなった。IDCが2026年7月8日に公表した調査によると、同年第2四半期(Q2)の世界PC出荷は前年同期比4.9%減の6,820万台となり、9四半期続いた成長が止まった。IDCのJitesh Ubrani氏は「台数は減っているのに売上は増えている。ベンダーが需要の落ち込みを上回る速さで値上げを通しているためだ」と述べており、メモリ高騰がついにクライアントPCの調達現場へ直接波及した転換点となった。
象徴的な事例が2026年7月24日に表面化した。ノートPCメーカーFrameworkは、LPCAMM2モジュールの仕入れ価格が想定を大きく超えて2倍以上に上昇したとして、Laptop 13 Proの32GBを従来の約439ドルから800ドル、64GBを1,600ドルへ引き上げた。同社CEOのNirav Patel氏は「サプライヤーからのコスト改定は予測をはるかに超えており、吸収すれば事業継続そのものが財務的リスクにさらされる」と説明した。さらに同社は、すでに受け付けた注文の一部について64GB構成を32GBへ、32GB構成を16GBへと引き下げている。発注済みの構成が納品前に格下げされた点が、情シスにとって最も重い示唆である。
LPCAMM2とは、ノートPC向けに小型化・省電力化された着脱可能なメモリモジュール規格である。着脱式ゆえに増設・交換の柔軟性が売りだが、2026年の高騰局面ではこのモジュール単価が短期間で2倍以上に上昇し、柔軟性より調達コストが前面に出る事態となった。
「台数は減るのに単価は上がる」構造とは何か
結論から言えば、2026年のPC市場は「出荷台数の減少」と「調達単価の上昇」が同時に進む珍しい局面にある。IDCは2026年通年のPC平均販売価格(ASP)が18.3%上昇すると見込み、出荷台数は前年比11.3%減へ下方修正する一方、金額ベースの市場規模は1.6%増の2,740億ドルへ拡大すると予測している。台数が縮んでも売上が伸びるのは、メモリを筆頭とする部材コストの上昇分が価格に転嫁されているためだ。
ASP(平均販売価格)とは、出荷1台あたりの平均販売単価を指す。ASPが18.3%上がるという予測は、情シスにとって「同じ台数を同じ構成で更改しても、支払総額が約2割増える」ことを意味する。IDCはこの不足が2028年初頭まで緩和しないと見ており、Gartnerのアナリストも供給制約は循環的ではなく構造的だと指摘している。
情シスのPC更改計画への3つの影響
1. 発注済み構成が「格下げ」されるリスク
Frameworkの事例は特殊な一社の話にとどまらない。メーカー各社は、エントリー機を予算内に収めるため、32GBを標準化する流れに逆行して8GB・16GB構成を据え置く動きを見せている。IDCによれば、一部ベンダーはメモリを搭載しない「RAMなし」状態でPCを出荷し始めている。情シスは、見積書に記載された容量が納品時に維持される保証を、契約段階と見積の有効期限とともに確認する必要がある。
2. 予算:1台あたり単価の二桁上昇
ASP18.3%上昇を前提にすると、1,000台規模の更改では調達総額が約2割膨らむ。台数据え置きでも予算超過が起きるため、更改台数の平準化や、業務要件に応じた容量の作り分け(一律32GBではなく用途別に16/32/64GBを割り当てる)でBOM(部品構成)コストを制御する余地を探ることになる。
3. タイミング:2028年初頭まで続く前提で計画する
IDCは供給逼迫が2028年初頭まで続くと見る。価格が2025年水準へ戻る展開は当面想定しにくく、更改を先送りするほど高い単価で買う確率が上がる。2026年下期に予定していた更改は、価格を固定できるうちに前倒しする判断が現実的な選択肢となる。
数値サマリー:2026年のPCクライアント調達
| 項目 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| Q2 2026 世界PC出荷 | 6,820万台(前年比4.9%減、9四半期ぶり減少) | IDC/2026年7月8日 |
| 2026年通年 PC出荷 | 前年比11.3%減(下方修正) | IDC |
| 2026年 PC平均販売価格(ASP) | +18.3% | IDC |
| 2026年 PC市場規模 | 2,740億ドル(+1.6%) | IDC |
| Framework 32GB LPCAMM2 | 約439ドル→800ドル | Tom's Hardware/2026年7月24日 |
| メモリ不足の緩和時期 | 2028年初頭まで継続見込み | IDC |
2026年Q2の世界PC出荷が前年同期比4.9%減となったのは9四半期ぶりの減少であり、メモリ不足が客先端末(クライアントPC)の調達コストと構成に直接波及したことを示す、記録上の転換点である。
情シスが確認すべき3つのポイント
- 発注済みPCのメモリ容量が納品時に維持されるか、見積の有効期限とあわせて販売店・メーカーに書面で確認する(Frameworkは確定注文を64GB→32GB・32GB→16GBへ格下げした前例がある)。
- 2026年度の更改予算をASP+18.3%(1台あたり約2割増)で再計算し、用途別の容量割り当て(16/32/64GB)で総コストを最適化する。
- 供給逼迫が2028年初頭まで続く前提で、下期に予定していた更改の前倒し可否と、既存機の延命(メモリ増設可否・互換性・保証)を並行評価する。
よくある質問
Q: 会社のノートPCは今買うべきか、価格が下がるまで待つべきか?
A: IDCはメモリ不足が2028年初頭まで続くと見ており、2025年水準への価格回復は当面想定しにくい。待つほど高い単価で買う確率が上がるため、必要な更改は価格を固定できるうちに前倒しする判断が合理的とされる。
Q: 発注済みのPCが低い容量で納品されることは実際にあるのか?
A: 2026年7月24日、FrameworkはLPCAMM2高騰を理由に受注済みの64GB構成を32GBへ、32GB構成を16GBへ引き下げた。見積時の容量が納品時に維持される保証を契約段階で確認することが重要である。
Q: サーバーメモリの逼迫とPCの逼迫は同じ原因か?
A: いずれもAI・データセンター向けにDRAM生産が振り向けられた構造的な容量移転が根本原因である。ただしPC側はLPCAMM2やSO-DIMMなどクライアント向けモジュールが対象で、サーバー向けRDIMMとは別の調達ルート・在庫状況で動く。