2026年8月時点の事実:第7世代「1d」DRAMの開発競争が動いた
2026年8月18日、DigiTimesはSamsungが10nmクラス第7世代DRAM(通称「1d」)の開発をSK hynixに先行して進め、9月の開発完了を目指していると報じた。関連報道によれば、SK hynixの1d開発完了目標は12月で、両社の差は約3カ月とされる。ただしこれは「開発(技術の確立)」の目標であり、量産(実際の大量生産)の目安はSamsungでも2027年後半とされている点に注意が必要だ。
情シスがこのニュースでまず押さえるべきは2点である。第一に、最先端ノードの量産が2027年後半にずれ込むため、2026〜2027年の調達には直接効かないこと。第二に、微細化で増えたビットの多くがHBM(後述)に優先配分され、汎用・サーバー向けDRAMに回りにくい構造があることだ。
DRAMの「1c」「1d」ノードとは
DRAMノードとは、メモリセルを刻む回路の微細化世代を指す。10nmクラスDRAMは1a→1b→1c→1dと世代が進むごとに回路寸法を縮め、同じ直径300mmのウエハ1枚からより多くのメモリセル(ビット)を取り出せるようにする技術である。世代が進むほど1ビットあたりの製造コストと消費電力が下がるのが原則だ。Micronは同等の世代を1-alpha/1-beta/1-gamma(1γ)と呼び、2026年時点の最新DDR5は1γ世代で最大9,200MT/s、前世代(1β)比で約15%の高速化と20%超の省電力を掲げている。
微細化で汎用DRAM供給は楽になるのか――2026年は「増えても回ってこない」
結論から言えば、2026年の局面では微細化は汎用・サーバーDRAMの供給緩和に直結しない。理由は、増えたビットの多くがHBM向けに優先配分され、HBMが同容量あたりDDR5の約3〜4倍のウエハ面積を消費するためである。
HBM(High Bandwidth Memory)とは、複数のDRAMダイを縦に積層しTSV(シリコン貫通電極)で接続した、AIアクセラレータ向けの広帯域メモリである。Tom's Hardwareによれば、HBMは1ギガバイトあたりDDR5の約3倍のウエハ容量を消費する。Micronは自社開示で「HBM1枚=DDR5約3枚分」の3対1の変換比率を、TrendForceは約4対1をそれぞれ示している。つまりメーカーが最先端ノードでウエハあたりのビットを増やしても、その増分がHBMに吸い込まれ、DDR5・RDIMMの実効供給はほとんど増えない。
実際、Samsungは1cをHBM4/HBM4Eのコアダイに、1dをHBM5Eのコアダイに投入する方針と報じられている(HBM5Eのベースダイには2nm世代のファウンドリ工程が用いられるとされる)。SK hynixの1c(第6世代)はDDR5・LPDDR6やモバイル向けオンデバイスAIが主用途で、HBMではHBM4Eのコアダイから採用され(HBM4のコアダイは前世代の1bを継続採用)、月産を2026年末までに約2万枚から16万〜19万枚規模へ引き上げる計画だ。いずれも最先端ノードの初期出荷はHBM・モバイル・高付加価値品が優先され、法人が調達する汎用DDR5・サーバーRDIMMへの波及は後回しになりやすい。
メーカー別の進捗の違い:Samsung / SK hynix / Micron
2026年8月時点の各社の10nmクラスDRAMの状況を整理すると次のとおり。
| メーカー | 最新10nmクラスノード | 開発・量産の目安 | 主な初期投入先 |
|---|---|---|---|
| Samsung | 第7世代(1d) | 開発完了9月目標/量産2027年後半(出典により未確定) | HBM5Eコアダイ 等 |
| SK hynix | 第6世代(1c)→第7世代(1d) | 1d開発完了12月目標/1cは2026年後半に供給開始 | DDR5・LPDDR6・HBM4Eコアダイ 等 |
| Micron | 1γ(1-gamma) | DDR5を出荷中(最大9,200MT/s) | DDR5、データセンター向け |
なお、Samsungの1d量産時期は流動的で、歩留まりや採算を理由に量産計画を見直す(後ろ倒しする)との報道もある。開発完了の先行と量産の前倒しは別問題であり、この点は出典間で見方が分かれている。
この技術動向が情シスの調達に与える影響
情シスにとっての実務的な含意は、「微細化ロードマップの進展=2026〜2027年の供給緩和」という前提を計画から外すことだ。最先端ノードの立ち上げは、まずHBMとモバイル高付加価値品に配分されるため、法人が主に使う汎用DDR5・サーバーRDIMMの逼迫は少なくとも2027年いっぱいは続く前提で予算・数量枠を設計するのが妥当である。
逆に言えば、微細化の恩恵(コスト低下・省電力)が一般調達価格に反映されるのは、量産ノードが十分にHBM需要を満たし、余剰能力が汎用品に回り始めてからになる。2026年8月時点でその転換点は見通せておらず、ノード世代の進化を「近い将来の値下がり材料」として調達計画に織り込むのは時期尚早だ。
情シスが確認すべき3つのポイント
- 「微細化=値下がり」を前提にしない:ノード進化のニュース(1c/1d)を短期の価格・供給改善材料とみなさず、2027年いっぱいは逼迫継続を前提に予算と数量枠を組む。
- 投入先を見極める:新ノードの初期能力はHBM・モバイル優先。自社が使う汎用DDR5・サーバーRDIMMへの波及時期をベンダーに確認し、見積り有効期限の短命化を前提に発注判断を早める。
- 製品世代とプラットフォーム互換を確認:更改時はDDR5専用CPUを前提に構成を確定し、ノード世代(速度・容量)の選択が自社サーバー・PCの対応範囲に収まるかを事前に検証する。
よくある質問(FAQ)
Q: DRAMの微細化(1c・1dなど)が進めば、2027年にはメモリ価格は下がりますか?
A: 2026年8月時点では、その前提を置くのは時期尚早です。最先端ノードの初期能力はHBMやモバイル高付加価値品に優先配分され、汎用DDR5・サーバーRDIMMへの波及は後回しになりやすいためです。少なくとも2027年いっぱいは逼迫継続を前提に計画するのが無難です。
Q: 1c・1dといったノード世代は、情シスが買うメモリのスペックに直接関係しますか?
A: 間接的に関係します。世代が進むと速度(例:Micron 1γで最大9,200MT/s)や省電力が向上しますが、法人が実際に買うのはRDIMMなどの完成モジュールです。ノード名より、対応CPU・プラットフォームの互換性と速度・容量の要件で選ぶのが実務上は確実です。
Q: なぜ最先端ノードで増産しても、サーバー用DRAMが増えないのですか?
A: HBMが同容量あたりDDR5の約3〜4倍のウエハ面積を消費するためです。メーカーが微細化でウエハあたりのビットを増やしても、その増分の多くが利益率の高いHBMに配分され、汎用DRAMの実効供給はほとんど増えません。