台湾のメモリモジュール大手Apacer(宇瞻科技)のC.K. Chang(張家騉)CEOは、2026年7月24日の2026年上期投資家説明会とその後の取材で、2027年にDRAMメーカーからモジュールメーカーへ供給されるDRAMが2026年の約30%――前年比でおよそ70%減――にまで落ち込む可能性を示した。DigiTimesが2026年7月27日に報じ、複数の海外メディアが追随している。これは世界のDRAM生産量そのものが70%減るという話ではなく、独立系モジュールメーカーに割り当てられる『取り分』が絞られるという供給構造の話である。
Apacerの警告とは何か――「モジュールメーカー向け供給が2027年に約30%」の意味
結論から言えば、これはDRAMの『価格』ではなく『割当量(アロケーション)』に関する警告である。モジュールメーカーとは、Samsung・SK hynix・MicronといったDRAMメーカーからメモリチップを購入し、DIMMなどの完成メモリモジュールに組み立てて出荷する企業を指す。KingstonやADATA、Apacerなどが該当し、情シスが増設や補修で購入するブランドメモリの多くはこの層を通って供給される。Chang CEOは、供給を確保することが、より高い価格を払うこと以上に大きな経営課題になっている、と述べたとされる。
- 2027年のモジュールメーカー向けDRAM供給は、2026年の約30%(前年比▲70%)に減る可能性
- DRAM生産能力の約60%が、すでにサーバー・データセンター向けに振り向けられている
- Apacer自身は2026年上期末までに約3億8,300万ドル分の在庫を積み増して備えている
なぜ供給が絞られるのか――HBM・サーバー偏重が及ぼす影響
供給が絞られる主因は、AIインフラ向けの高採算メモリへの生産シフトである。HBM(High Bandwidth Memory)とは、DRAMを垂直に積層して広帯域を実現する高付加価値メモリで、AIアクセラレータに直結する。海外報道によれば、DRAMメーカー3社のウェハー投入に占めるHBMの比率は2026年の約22%から2027年末には約30%へ高まる見通しだ。HBMは大きなダイと複雑な工程を要するため、同じウェハー面積から得られる汎用DRAMのビット数を圧迫する。結果として、サーバー・HBM・大口クラウド顧客向けが優先され、モジュールメーカーに回る分が構造的に細っていく。
情シスへの影響とは――「価格高騰」から「玉が無い」への局面変化
情シスにとっての要点は、2027年が『高くても買える』時代から『そもそも玉(在庫)が確保できない』時代への移行点になり得るということだ。増設用・補修用のブランドメモリモジュールは、まさにApacerのようなモジュールメーカーを経由して市場に出る。RDIMM(Registered DIMM、サーバー向けにバッファを挟んで安定性を高めたメモリモジュール)や汎用のDDR5モジュールは、割当が細れば『見積もりは取れても納期が示せない』『発注済みでも数量が確定しない』といった事態が起きやすくなる。すでにEOL(End of Life=生産終了)が進む旧世代のDDR4補修部品では同種の品薄が顕在化しており、これがDDR5世代の主力モジュールにも広がる懸念がある。
Apacerが約3億8,300万ドルもの在庫を先に積んだという事実は、川下のプロ調達担当者ですら『買えるうちに確保する』戦略に転じていることを示す。情シスも、重要システム向けの予備メモリは『必要になったら買う』から『確保できるうちに押さえる』への発想転換が現実的な選択肢になる。今回の警告の本質は価格ではなく数量であり、2027年の調達は入手性そのものがボトルネックになり得る点を上長への報告に織り込むべきである。
他社・他機関の見立てとの比較
Apacerの警告は突出した悲観論ではなく、業界内で複数の同趣旨の見方が並ぶ。時点と主体を整理すると、供給ひっ迫が2027年に一段と深まるという点で見解が概ね一致している。
| 主体 | 時点 | 見立て |
|---|---|---|
| Apacer(Chang CEO) | 2026年7月24日 | モジュールメーカー向け供給が2027年に2026年比約30%(▲70%) |
| ADATA(Chen Li-bai会長) | 2026年7月 | DRAM不足は約10年続き得る。2028〜2035年の新工場でも需要を満たせない恐れ |
| SK hynix(Kwak Noh-jung CEO) | 2026年7月 | 需給面で2027年が最も厳しい年になり得る(2030年頃まで継続との観測) |
| Meritz証券(推計) | 2026年 | 供給は2026年下期に需要の75〜80%、2027年は60%台に低下の可能性 |
情シスが確認すべき3つのポイント
- 調達経路の棚卸し:自社の増設・補修用メモリが、モジュールメーカー経由のブランド品にどれだけ依存しているかを洗い出し、認定ディストリビューター経由の比率を確認する。
- 重要システムの予備確保:基幹サーバー・ストレージのメモリは、2027年の割当縮小を前提に、必要数量と予備を今年度内に押さえられるか見積もりを取る。
- 更改計画のタイミング再設計:DDR4のEOLとDDR5割当縮小の双方を織り込み、更改・増設のスケジュールを前倒しできるか、複数年での数量枠を交渉できるかを検討する。
Q: 2027年にメモリが『70%減る』とは、市場から製品が7割消えるという意味ですか?
A: いいえ。DRAMの総生産量が7割減るという意味ではなく、DRAMメーカーが独立系モジュールメーカーに割り当てる『取り分』が2026年比で約30%(=約70%減)に細る可能性を指します。生産能力の多くがサーバー・HBM・大口クラウド向けに優先配分されるため、ブランドの増設・補修モジュールが入手しにくくなる、という供給構造の話です。
Q: 情シスは今すぐ大量に買いだめすべきですか?
A: 一律の買いだめは在庫の陳腐化リスクを伴うため推奨されません。優先すべきは、止められない基幹システム向けの予備メモリと、EOLが進む旧世代(DDR4等)の補修部品です。用途の重要度で優先順位を付け、認定ルート経由で必要分を前倒し確保するのが現実的です。
Q: 供給ひっ迫はいつ緩和しますか?
A: 2026年8月4日時点では、複数の業界関係者が2027年に一段と厳しくなるとの見方を示しています。ADATA会長は約10年続き得ると述べ、SK hynixは2030年頃までの継続を見込むとされます。新工場の本格稼働で需給が均衡するのは早くても2027年後半〜2028年以降とされ、2026〜2027年の調達計画はひっ迫継続を前提に組むのが妥当です。