2026年上期に何が起きたのか
結論から言えば、SamsungとSK hynixの在庫は2026年上期(1〜6月)に前年末より明確に増えた。DigiTimesが2026年9月2日に報じた「Samsung, SK Hynix inventories surge as valuation reserves fall」によれば、両社は需要が供給を上回る市況にもかかわらず、6か月前より多い在庫を抱えて上期を終えた。同社はこれを「供給が需要に追いつかない市場では珍しい動き」と表現している。
数字で確認できるのはSK hynixの四半期分だ。同社の米国上場に伴う目論見書(SEC提出のForm 424B4、2026年7月提出)によれば、連結在庫は2025年12月末の約14兆2,890億ウォンから、2026年3月末には約15兆9,740億ウォンへと約1兆6,850億ウォン(およそ+11.8%)増えた。DRAM(Dynamic Random Access Memory、PCやサーバーの主記憶に使う揮発性メモリ)が売り手市場のまま在庫が積み上がるのは、直感に反する動きだ。
| 時点 | SK hynix 連結在庫 | 前期比 |
|---|---|---|
| 2025年12月末 | 約14兆2,890億ウォン | ― |
| 2026年3月末 | 約15兆9,740億ウォン | 約+11.8% |
在庫増でも汎用DRAM供給が緩まないのはなぜか
在庫が増えても、情シスが調達する汎用DDR5の供給が緩むわけではない。理由は在庫の「中身」と「意図」にある。
第一に、積み上がっている在庫の多くはHBM(High Bandwidth Memory、AIアクセラレータ向けに複数のDRAMを積層した広帯域メモリ)やサーバー向けの高付加価値品に寄っている。2025年後半から2026年にかけて各社はDRAMの生産能力をHBMへ振り向けており、HBMは同容量のDDR5に比べウェハ消費量が大きい。つまり在庫の増加分がそのまま汎用DDR5やDDR4の店頭・見積もりに回るわけではなく、統計上の在庫改善が調達現場の納期短縮に直結しない。
第二に、SK hynixは自社のDRAM・HBM・NANDの生産能力を「今年分は実質完売」とし、2027年分まで売り切れているとされる。生産枠が長期契約で押さえられている状況では、この在庫は「余った玉」ではなく「出荷待ち・配分待ちの玉」に近い。買い手が自由に取りに行ける在庫ではない、という点が重要だ。
在庫評価引当金とは――縮小が示す価格の見通し
今回の動きで最も重要なのは、在庫が増える一方で在庫評価引当金が縮小している点だ。在庫評価引当金(valuation reserve/inventory valuation allowance)とは、在庫の時価が取得原価を下回った場合に備えて計上する評価損の引当であり、メーカーが「将来値下がりする」と見込むほど厚く積む性質を持つ。
その引当が縮小しているということは、メーカーが手元在庫を高値で売り切れると見込んでいることを意味する。在庫が積み上がっても在庫評価引当金が縮小しているのは、メーカーが値下がりを織り込んでいない証拠であり、この在庫増は汎用DRAMの供給緩和を意味しない。実際、汎用DRAMの契約価格は2026年Q1に前四半期比で約93〜98%上昇し、Q2にもSamsungが約30%の追加引き上げを実施したと報じられている。値下がりを見込む会社なら、引当を厚くこそすれ縮小はさせない。
情シスの調達計画への影響
実務への含意はシンプルだ。「メーカーの在庫が増えた=そろそろ値下がりする」という読みで更改や増設を先送りすると、想定が外れる可能性が高い。今回の在庫増は供給余剰のシグナルではなく、むしろ売り手が価格決定力を保ったまま出荷を配分しているシグナルに近い。
特にサーバーメモリ(RDIMM: Registered DIMM、バッファを挟んで多数のメモリを安定動作させるサーバー向けモジュール)は、AI・サーバー優先の配分が続く限り、在庫統計の改善が納期短縮や単価下落に結びつきにくい。増設・更改の見積もりは、在庫増を理由に単価が下がる前提では組まないほうが安全だ。逆に言えば、必要数量と構成を先に固め、配分枠を早く確保した組織ほど、この局面での調達リスクを抑えやすい。
情シスが確認すべき3つのポイント
- メーカーやディストリビューターの在庫が増えたという報道を、単価下落の根拠として稟議に使わない。在庫評価引当金の縮小と生産枠の完売が示す通り、2026年9月6日時点で値下がり前提は取りにくい。
- 汎用DDR5/DDR4の見積もりは、HBM・サーバー優先の配分が続く前提で、見積もりの有効期限と数量を早めに確定する。在庫統計と実際の納期・単価は連動していない。
- 更改・増設のタイミングは「在庫が積み上がったら買う」ではなく、必要数量と構成を先に確定し、配分枠を確保する順序で進める。
よくある質問
Q: メーカーの在庫が増えたなら、待てばDRAMは安くなりますか?
A: 2026年9月6日時点では、その前提は取りにくいです。SamsungとSK hynixは上期に在庫を積み増しましたが、同時に在庫評価引当金は縮小しています。これは値下がりを見込んでいないサインで、契約価格もQ1・Q2と連続で上昇しています。
Q: 在庫評価引当金の縮小は情シスにとって何を意味しますか?
A: メーカーが手持ち在庫を高値で売り切れると考えている、という意味です。買い手側から見れば、値下がり待ちの先送りが機能しにくい局面が続くことを示します。
Q: 積み上がった在庫はいずれ汎用DDR5として市場に出ますか?
A: 在庫の多くはHBMやサーバー向けの高付加価値品に寄っており、生産枠も2027年分まで押さえられているとされます。汎用DDR5・DDR4の供給がすぐ緩むとは限らず、在庫増だけを根拠に供給改善を見込むのは避けたほうが無難です。